マイ・フェア・レディ

シネマの宝石学―洗練された大人のおとぎ話11

ミュージカルの踊る宝石たち(2)

「マイ・フェア・レディ」

“ミュージカルの踊る宝石たち(1)”で紹介した「恋のてほどき」は、もともと「ジジ」という舞台を映画化したものである。舞台で初代のジジを演じたのは、かのオードリー・へプバーンだった。原作者であるコレット女史が、ヒロイン選びに、困り果てていたとき、そのまえを、見たこともないほど、個性的な少女が走り抜けた。ある映画の端役として、花嫁姿で走っていた、まだ無名のオードリーだった。「私のジジが走ってるわ」コレット女史は叫んだという。オードリーはジジ役で、世界にデビュー。その舞台を見た監督ウィリアム・ワイラーが、映画「ローマの休日」の王女役に抜擢。オードリーは、たちまち大スターとなった。

11年後、彼女もまたミュージカルに主演している。「マイフェアレディ(1964年)」である。ヒロインは、最下層の汚い花売り娘イライザ。ひょんなことから、言語学者ヒギンズ教授の家に住み込み、そのコクニー訛りを直され、王族の舞踏会に出席するまでになる。くしくもジジと同じく、レディになるための勉強にいそしむのだ。

レッスンが進み、訛りが矯正されるにつれ、服装がよくなり、きれいになっていくさまが、興味深い。優雅になると同時に、人格的にも、成長していく。その成果は、社交界でも第一級の舞踏会で証明された。ヒギンズ教授により、エスコートされドレスをまとい、ダイアモンドのパリュールを煌めかせて、それはそれは美しかった。イライザは、皇太子にダンスを申し込まれた。人々は噂する。あれは、ハンガリーの王女だと。

舞踏会デビューは大成功に終わり、ヒギンズは大喜び。その様子を見たイライザは、自分の人格がまったく無視されているのに気づき、この家を出て行く決心をする。胸元のまばゆいダイアモンドがいくら似合っていたとしても、所詮は、宝石店からの借り物。すべてはずして教授に返し、唯一自分のものといえる、教授から贈られた指輪もはずして投げつける。女嫌いで、独身主義のヒギンズだが、イライザを失って初めて感じる寂しさをどうすることもできない。彼もまた、人を愛することを知り、人間的に成長したのである。

岩田裕子