ルードウィヒ

シネマの宝石学―洗練された大人のおとぎ話09

王冠の見る夢

「ルードウィヒ-神々の黄昏」

地獄を見てしまった男。それが、ルードウィヒ2世なのである。それはまた、この世ともあの世ともつかぬ煌びやかな夢の世界。ローエングリンやタンホイザーが生き生きと住む、絢爛豪華な地獄なのだ。彼の生涯を映画化したルキノ・ヴィスコンティもまた、世にも豪奢な地獄を生きてきた男である。ルードウィヒを理解し、その人生を、その精神を、神業ともいえる完璧さで、現出できたのは、自身も大貴族であるヴィスコンティ以外にありえない。まさに奇跡の出会いといえるのではないか。

生まれながらにして、最高の権力を手にし、人々にかしずかれ、だからこそ孤独にさいなまれた生涯。彼が信じられたのは、美であり、藝術、それのみだったルードウィヒ。映画は史実を丹念に描写している。1864年、バイエルン王として即位した18歳のルードウィヒ2世は、輝くばかりに美しかった。だれもが若い王に夢中になり、本人も司祭の教えを守り、理想的な君主になろうと、決意に燃えていた。しかし、どこで間違ったのか。彼は、少しずつ、すこーしずつ常軌を逸していく。

はじめのきっかけは、王憧れの作曲家ワグナーである。王となり、最初の命令が行方不明のワグナーを探し出すことだった。「ニーベルングの指環」、「トリスタンとイゾルデ」など、神ともみまごう作品世界の創造者、天才作曲家ワグナー。しかしその素顔は、図々しい俗物に他ならなかった。

不倫の関係から妻となったコジマの政治力、ワグナーの浪費癖に、世間しらずの王はすっかりいいように利用されてしまう。贅沢好きなワグナーの生活費。オペラの上演費用、きわめつけは、ワグナーのためだけに建設されたバイロイト祝祭劇場。彼のために、どれほど、国庫が散財されたことだろう。美貌の王の評判も地に落ちた。

もうひとり、ルードウィヒをとりこにしたのは、いとこであり、ハプスブルグ家皇后エリザベート―最近、日本でも大人気な伝説の美貌の王妃―だった。
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岩田裕子