ぼんち

シネマの宝石学―洗練された大人のおとぎ話08

色町に息づく欲望のダイアモンド

「ぼんち」

宝石とは、贅沢の匂いにひきつけられる蜜蜂のような存在では、ないだろうか。王侯貴族や、富裕階級の周辺に多く生息するのは当然だ。今回、取り上げた映画では、宝石は、売れっ子芸者のしなやかな指に止まっている。彼女の背後には、戦前の遊び上手な船場の旦那たちが、見え隠れしている。

明治期から始まった日本の宝飾史は、鹿鳴館に集う貴婦人と花街をいろどる芸者衆から、広まったと聞いている。大阪・新町の芸妓ぽんたは、まさに後者の代表的な存在なのだ。映画「ぼんち」を構成する、癖のある登場人物のなかの、とりわけ美しく、陽気で派手好きな花、それが、ぽんたなのである。彼女は、指輪芸者とよばれていた。

戦前戦後の大阪・船場を舞台とした映画「ぼんち」は、150年の歴史ある足袋問屋の若旦那(市川雷蔵)を主人公とし、船場のしきたりや花柳界の風俗をきめ細かく描いている。タイトルの「ぼんち」とは、ただのぼんぼんではない、気骨のある旦那をさした船場ことばなのだそうだ。

この映画をみるわたしたちは、まるで不思議の国に紛れ込んだアリスのように、平成の日本とは、まるで違う価値観、まったく違う風俗に彩られた、もうひとつの不思議な日本にはまってしまうことになる。物語の冒頭は、まだ22歳の喜久治が、月に二回の衣替えのため、裸で立っているアップから始まる。これも船場のしきたりなのだ。上女中のなすがまま、体中に天花粉を振り掛けられ、真新しい下着を着せられる喜久治は、昔話の主人公のように、清潔で美しい。

喜久治は、老舗河内屋の5代目なのだが、ここ3代女系がつづいており、番頭を養子に迎えているので、喜久治の父、祖父はもちろん、正当な嫡男である「喜久ぼん」さえ、女たちの勢いには、たじたじとなっている。この家で、一番権力のあるのは、家付き娘である喜久治の祖母きのだった。次は、きのに甘えていつまでも子供のような母、勢以なのである。

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岩田裕子